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August 11, 2005

91年東京世界陸上 谷口浩美マラソンを制す

1991年9月1日 防災の日と重なったこの日、第3回世界陸上競技選手権大会東京大会 男子マラソンがスタートしたのは午前6時。
それでも気温は26度。しかも湿度が73%という悪条件だった。
日本陸連科学部が「東京での開催は選手の生命にかかわりかねない」として、この種目だけ北海道での分離開催が提案されたこともあった。懸念された通り、厳しい残暑との戦いとなった。

体力の消耗を避けるためか、どの選手もスピードを上げない。いや上げられないのか、ゆっくりしたペースで進んでいく。25キロを過ぎて強豪のメコネン(エチオピア)が棄権。続いて31キロ付近で、日本のエース中山竹通がレースを止めた。

先頭グループから次々と脱落者が出る中、「暑さは気にならない」という谷口浩美は「我慢」と自分に言い聞かせていた。
早朝にもかかわらず、沿道には約5万3000人(警視庁調べ)が応援に駆けつけた。
日本人のマラソン好きは、東京五輪時も、世界陸上時も、そして今も変わらない。
声援が谷口を押す。
38キロの市ケ谷駅前の上り坂を、口をあけ、首を振りふり、必死の形相でスピードアップ。4人の先頭集団から、谷口が抜け出した。四ツ谷の交差点で右折した時、谷口が後ろを振り返ると、もう後続は小さくなっていた。

いつものように首を傾け、口を開いてゆがめた苦しみの形相が笑顔に変わる。
ゴール手前100メートル。悲鳴にも似た歓声がスタンドを包む中、谷口は両手を広げてガッツポーズ。
酷暑のレースに耐え抜いて日本選手として大会初の金メダルをつかんだ瞬間だった。

マラソン金メダルは、1936年ベルリン五輪 日本統治下の朝鮮出身の孫基禎氏が獲ったことはあるが、日本人としては女子を通しても五輪、世界陸上を通じて初の快挙だった。

当時、谷口はマラソン14戦で7勝目。その最高のタイトルは自己最低の2時間14分57秒という記録だった。

 ◆1991年 東京世界陸上 男子マラソン成績
 (1) 谷口浩美(日本)     2時間14分57秒
 (2) サラ(ジブチ)       2時間15分26秒
 (3) スペンス(米)       2時間15分36秒

谷口は世界選手権金メダルでバルセロナ五輪代表に内定される。
しかし、バルセロナでは途中シューズを踏まれ転倒。それでも後半追い上げ8位入賞を果たした。
そのとき、誰に恨みをいうでもなく「こけちゃいました」
と笑顔で答えた谷口。彼の人柄を示すエピソードだった。
なおバルセロナ五輪では男子は森下公一が、女子では有森裕子が銀メダルを獲った。

マラソン選手にとって最も過酷だったのはどの五輪あるいは世界陸上だろうか。
マラソンはロード競技であり、トラック競技とは性格を少々異にしている。道路や環境の状況によって条件が違いすぎるためだ。
そのため、競歩とともに世界新記録という言い方をせずに「世界最高記録」といっている。
マラソンは男女とも近年、大幅に世界記録が更新されているが、40年前の東京五輪の優勝タイムと比較してみても意外と記録の相違はない。

1983年に始まった世界陸上選手権の優勝タイムを合わせて比較してみると、優勝タイムの最も悪かったのは68年メキシコ五輪の2時間20分台。
メキシコシティは海抜2240㍍の高地であり、空気抵抗が少ないため、陸上の短距離や跳躍で高記録が続出した。
一方、空気が薄いため長距離は苦しかったようだ。
エチオピアのマモーに続いて君原健二さんが2位に入ったが、タイムは2時間23分台。
マモーから3分以上離されていたことになる。
君原さんの走り方は首を振り、いかにも苦しそうに走るのだが、このときは一層苦しそうに見えた。

ついで注目は2つの東京のタイム。
1964年10月10日に開幕した東京五輪のマラソンは、すばらしい条件下で、アベベ・ビキラがローマ大会に続いて史上初の連覇を達成。世界最高記録のおまけもついた。
一方、91年の東京世界陸上。
前述のように、優勝タイムは2時間14分台。
高地のメキシコを除いて、ここ40年間の五輪、世界陸上で最もタイムが悪い。
夏のマラソンとしては陸上史に残る過酷なレースである。

昨年7月20日の東京の最高気温は39.5度、翌朝の朝も最低気温は30度を割らなかった。
もう一度、東京で五輪をやるとしたら、あるいは2007年大阪世界陸上のマラソンは、深夜にやるか、札幌を舞台にするか真剣に考えるべきだ。

今回のヘルシンキは随分と寒く、摂氏10度というはなしもある。
観客を見ても全く冬の格好だ。マラソンは好記録が期待できるぞ!

●五輪のマラソン優勝タイムの変遷(男子)
1964 東京       2時間12分11秒2 アベベ・ビキラ(エチオピア) 
1968 メキシコ     2時間20分26秒4 マモー・ウォルデ(エチオピア)
1972 ミュンヘン    2時間12分19秒8 フランク・ショーター(アメリカ)
1976 モントリオール  2時間09分55秒 ワイデマール・チェルピンスキー(東独)
1980 モスクワ     2時間11分03秒 ワイデマール・チェルピンスキー(東独)
1984 ロサンゼルス   2時間09分21秒 カルロス・ロペス(ポルトガル)
1988 ソウル      2時間10分32秒 ボルディン(イタリア)
1992 バルセロナ    2時間13分23秒 ファン・ヨンジュ(韓国)
1996 アトランタ    2時間12分36秒 チュグワネ(南アフリカ)
2000 シドニー     2時間10分11秒 アベラ(エチオピア)
2004 アテネ      2時間10分55 秒ステファノ・バルディニ (イタリア)

●五輪のマラソン優勝タイムの変遷(女子)
1984 ロサンゼルス   2時間24分52秒 ベノイト(アメリカ)
1988 ソウル      2時間25分40秒 ロサ・モタ(ポルトガル)
1992 バルセロナ    2時間32分41秒 エゴロワ(EUN)
1996 アトランタ    2時間26分05秒 ロバ(ケニア)
2000 シドニー     2時間23分14秒 高橋尚子(日本)
2004 アテネ      2時間26分20秒 野口みずき(日本)

●世界陸上マラソン優勝タイムの変遷(男子)
1983 ヘルシンキ   2時間10分03秒 ロバート・デ・キャステラ(豪州)
1987 ローマ     2時間11分48秒 ダグラス・ワキウリ(ケニア)
1991 東京      2時間14分57秒 谷口浩美(日本)
1993 シュツットガルト2時間13分57秒 M・プラティス(アメリカ)
1995 イエテボリ   2時間11分41秒 M・フィス(スペイン)
1997 アテネ     2時間13分16秒 アント・アベル(スペイン)
1999 セビリア    2時間13分36秒 アント・アベル(スペイン)
2001 エドモントン  2時間12分2秒 G・アベラ(エチオピア)
2003 パリ      2時間08分31秒 ガリブ(モロッコ)

●世界陸上マラソン優勝タイムの変遷(女子)
1983 ヘルシンキ   2時間28分09秒 グレテ・ワイツ(ノルウェー)
1987 ローマ     2時間25分17秒 ロサ・モタ(ポルトガル)
1991 東京      2時間29分53秒 パンフィル(ポーランド)
1993 シュツットガルト2時間30分03秒 浅利純子(日本)
1995 イエテボリ   2時間25分39秒 M・マチャド(ポルトガル)
1997 アテネ     2時間29分48秒 鈴木博美(日本)
1999 セビリア    2時間26分59秒 チョン・スンオク(北朝鮮)
2001 エドモントン  2時間26分01秒 リディア・シモン(ルーマニア)
2003 パリ      2時間23分55秒 C・ヌデレバ(ケニア)

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