国籍を変える選手たち
ロス五輪の陸上競技で女子の400m障害が初めて採用され、大番狂わせ的に優勝したのがモロッコのナワル・エル・ムータワキルだ。
この種目の強い東欧圏がボイコットで参加していなかったとはいえ、モロッコ、女子選手ということで斬新な印象を持った。
ロス五輪では男子5000mでもモロッコのサイド・アウィータが優勝し、モロッコ旋風と言われた。
翌年、アウィータはスティーブ・クラムの持っていた1500mの世界記録を更新、さらには史上初めて5000mで13分を破る12分58秒39という世界新記録を出した。
去る26日ベルギーのヒュースデンゾルダーで行われた競技会で松宮隆行が5000mに出場、13分13秒20の日本新記録を出し、A標準を突破、大阪世界陸上の出場権を手にしたのだが、22年前に現在の日本記録を15秒も上回る世界記録を出していたアウィータの凄さがわかるだろう。
そして近年のモロッコの大スターといえば既に引退したヒシャム・エルゲルージ。
1995年から2003年まで世界陸上の1500mで5連覇し、アテネ五輪の1500mと5000mの2冠を制したのは記憶に新しいところだ。
エルゲルージの1500mと5000mの2冠というのは史上初の快挙だったが、2005年の世界陸上では、大会史上初となる800mと1500mの2冠を達成したのがラシド・ラムジだ。
陸上中距離の800mと1500m、世界的には中距離は選手層が厚く、2冠の達成となると東京五輪のピーター・スネルにまで遡らなければならない。
セバスチャン・コーも1500mはモスクワ五輪、800mはロス五輪と2大会かけて2冠を達成している。
このラシド・ラムジ、出身はモロッコなのだが、実はバーレーンに国籍を移している。
人口僅かに70万弱、ペルシア湾に浮か小国はビジネスとスポーツで名を売ろうとしている。
フランスのレ・キップ紙によると
バーレーンは、国際舞台で自国の存在をアピール出来るスターを集めている。王者を集め、自国ジュニア選手たちに引き継ぎたいのだ
バーレーンに帰化した段階でイスラム風の名前にすることが多いため詳細はわからないが、昨年のドーハアジア大会のバーレーン選手団の元の国籍はエチオピア、モロッコなど7カ国に渡っている。
有力選手が帰化する代わりに故国での競技場の建設など巨額の金銭が動いている。
同様のことはカタールでも盛んで、ケニア国籍時代にはステファン・チェロノという名前だったサイフ・サイード・シャヒーンはカタール代表として2003年、05年の世界陸上の3000m障害で金メダルを獲っている。
また、先日のエントリー 100mで9.99のアジア新記録を出したサミュエル・フランシスもナイジェリアからカタールに国籍を移した選手だ。
現代はボーダレスの時代であり、日本でも小山修加や桜木JRが活躍している。
とはいうものの、国別対抗という国際競技の根本が揺らいでいるのは否めない。
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