ボルトは0.104秒早かった 過去のフライングのトラブルから考える
IAAFの公式サイトには、100m決勝でフライングし、失格となったボルト、同準決勝でフライング失格となったチェンバース、女子400m予選で失格となったクリスティーン・オフルオグの反応タイムが公開されている。
それによると
ウサイン・ボルト(JAM) -0.104秒
ドゥエイン・チェンバース(GBR) -0.137秒
クリスティーン・オフルオグ(GBR) -0.340秒
いずれもマイナスになっているのは、スタートのピストルがなる前に飛び出していることを示す。
詳しくいうと、例えプラスであっても、スタートのピストル音が鳴ってから0.100秒未満の反応時間を示すとフライングと判定される。
というのも、人は音を聞いてから反応まで、最低でも0.1秒はかかるとされているためだ。
陸上競技ファンならば恐らくパリ大会のドラモンドを覚えているだろう。
2003年世界陸上パリ大会の男子100m2次予選で、ジョン・ドラモンド(米国)、アサファ・パウエル(ジャマイカ)の2選手がフライングにより失格となった。
ドラモンドは、これを受け入れることができず、コースに寝転がるなどして抗議した。
後に公表された数字によると、ドラモンドの反応時間は0.052秒、パウエルは0.086秒。
いずれも+であるが、0.1秒以内の反応ということでフライングと判断された。
さらに、ドラモンドはこのときの態度が悪かったとして、IAAF主催の競技会から追放、という重いペナルティを受けた。
スターティングブロックの計器は、大会スポンサーであるSEIKO製。
ドラモンドは、SEIKOに抗議するも覆ることはなかった。
このときのドラモンドのフライングは、ピストルがなる前からの足のぐらつきに計器が反応して、フライングと判定されたという説もある。
が、パリ大会を通して同様の計器の誤作動は報告されていないため、説得力に欠ける。
なお、このときドラモンドは36歳になるひと月前、このときまで個人での世界タイトルは獲っておらず、パリ大会を最後のチャンスと捉えていた。
結果、有力選手を欠いたパリ大会の優勝タイムはキム・コリンズ(月曜日に銅メダルを獲ったあの選手)の10秒07。
ドラモンドにとってはなんとも口惜しい大会となったことだろう。
ドラモンドは1993年のモナコグランプリの100mに0.100秒で反応したという記録も残っており、驚異的な反応時間の持ち主であったらしいことは確かだ。
記録を調べていくと、1994年の広島アジア大会の男子100m決勝では、何とスタートを5度やり直している。
第7レーンの選手が2度続けてフライングを犯して失格(当時のルールによる)。
その後、3回続けてフライング判定装置が誤作動し、そのたびにリコールスターターがピストルを撃ってやり直しをし、6回目のスタートでやっと競技が成立した。
そのときの結果はこうだった。
●1994年広島アジア大会男子100m決勝
①タラル・マンスール (カタール) 10秒18(大会新)
②サ ビ ン (カザフスタン)10秒29
③陳 文 忠 (中 国) 10秒38
マンスールは、1986・90・94年とアジア大会を3連覇した大選手で、この状況の中でも大会新記録を出した。
4位に入った井上悟が、「経験の差はなんともし難い」といったようなことを覚えている。
The comments to this entry are closed.
Comments