新・五輪招致の記憶(6)豪腕プーチン ソチ五輪を呼び込む
安倍首相が外遊日程で頭を悩ませているそうだ。
というのも9月5、6日にロシアでの主要20カ国・地域(G20)首脳会議があり、7日にはブエノスアイレスでIOC総会がある。
IOC総会では2020年五輪開催地が決定されるため、どちらの出席にも意欲的だというのだ。
前回の2016年夏季五輪開催地の決まったコペンハーゲンのIOC総会には、鳩山由紀夫総理(当時)が出席しているが、東京と同じく落選したシカゴは、オバマ大統領が招致スピーチをしている。
IOC総会に首相、元首クラスの大物が出席するようになったのはいつからだろうか。
2012年の夏季五輪がロンドンに決まったのは、2005年7月シンガポールで開催されたIOC総会。
3大会連続立候補し、早くから本命とされたパリをロンドンが敗った。
各都市の招致委員会は会議場となる当地のホテルで、パリはフランスのシラク大統領(当時)、ロンドンはブレア首相(当時)、さらにはデビッド・ベッカムなどが集い、活発なロビー活動を行った。
このとき、ブレア首相とシラク大統領が顔を合わせたことで、五輪開催地決定の際に国家元首が招致アピールをする既定路線ほぼできたと言える。(厳密にいうならばブレア首相、シラク大統領ともに、直後にG8サミットを控えていたためロビー活動のみで、招致スピーチはしていない。)
2014年冬季五輪開催地は、2007年7月にグアテマラシティで開催されたIOC総会で決まった。
争ったのはソチ(ロシア)、平昌(韓国)、ザルツブルク(オーストリア)の3都市。
IOCの評価報告書では、平昌が最も評価が高く、世界中のスキーファンはモーツァルト生誕の地であるザルツブルクを推した。
が、直前にオーストリアのスキーとバイアスロンの6選手のドーピングが発覚し、五輪から永久追放を受けた。
オーストリア五輪委員会は、IOC総会のわずか2ヶ月前に100万ドルの罰金処分を受け、最も堅実と思われたザルツブルクが招致レースから後退して行った。
それでもザルツブルクの応援には、オーストリアからグーゼンバウアー首相とフィッシャー大統領(いずれも当時)が駆けつけた。
一方、韓国は盧武鉉大統領(当時・故人)、ロシアもプーチン大統領が顔を揃えた。
2年前の2012年夏季五輪開催地招致レースで、立候補したロンドン、パリ、マドリード、ニューヨーク、モスクワの5都市が投じた費用の総額に匹敵する4000万ドルもの大金をソチ、平昌の双方が使っているとAP通信が伝えた。ザルツブルクですら1300万ドルを投じたと言われている。
平昌の後ろにはIOCパートナーのサムスン、ソチの後ろにはロシアの国営ガス企業ガスプロムが控える国家総力戦だった。
ご存知のようにIOCには、100人以上の委員がいる。
とはいうものの、半数以上のIOC委員は、アフリカ、アジアの冬季五輪に直接関係のない(ほとんど参加しない)国の委員だ。
この浮動票をいかに取り込むかが鍵になる。
結果はソチが56-53で平昌を敗ったのだが、その勝因はプーチン大統領の存在といっても過言はない。
元々ソチという町は、旧ソ連時代から、共産党幹部が避暑に使っていたまち。
プーチン大統領も多分に洩れずソチにスキー用別荘を持っていた。
そのプーチン氏は投票2日前、米露首脳会談を経てグアテマラ入り。
IOC総会開会式後のレセプションでは、握手を求めるIOC委員等の行列ができた。
投票直前の招致演説では、英語とフランス語で政府の全面支援をぶち上げ、多くの委員の意表を突いた。
プーチン氏が公の席でロシア語以外を披露したことは、おそらくこれが初めて。
世界中が驚いた。
一方、韓国の盧武鉉氏、韓国語の原稿を見ながらの演説ではプーチン氏に適うはずもない。
ソチの招致戦略は多くの面でロンドンをモデルにしたもの。
12年モスクワ招致の失敗から、複数の五輪金メダリストを招致の顔に立て、計画策定にも関わらせた。
競技施設群と選手村を集中させ、コンパクトさもアピールした。
ソチの勝利を受けてロゲIOC会長はこう述べた。
「政治的リーダーによる保証と支援は心強い。成功する招致の条件は、政府と国民の強力な支持を得ていることだ」。
そして僅差で平昌をかわしたのは、元駐ソ連大使でロシアへの思い入れが強いサマランチ前会長の影響力もあったとも言われている。
平昌は、この4年後2018年の冬季五輪招致を成し遂げるのだが、ソチに敗れたこのとき、韓国の聨合通信はこんな記事を配信している。
(このいかにも韓国らしい記事は韓国語のみで、英語の記事も日本語の記事もなかった。)
平昌は2回連続冬季五輪招致に失敗して 8年に渡る努力が水泡に帰してしまった。
一方黒海沿岸の夏休養地であるソチは競技場施設が全くない状態で、度が外れた環境破壊によって非難が殺到している。
また、初の立候補で冬季五輪開催地になり相当な論難がおこる見込みだ。
2010年五輪招致に失敗した平昌は直後直ちに組職を再編し、完璧に2014年招致を準備した。
IOC委員たちを対象に底引網招致作戦(?)を広げたし北朝鮮五輪委員会も支持を約束して対外的な名分でも一番先に進んだ。
(サムスン会長でIOC委員の)李健煕も世界を通いながら支持を訴え、現代・起亜,LG,SKなどの企業グループも総力戦を広げた。
盧武鉉大統領までIOC総会の開催されるグアテマラに行き、スポーツ外交'を広げたが IOCは結局プーチン大統領に迎合してしまった。
今回の冬季五輪開催地投票の結果は対外的な名分と完璧な招致計画よりはIOC委員たちが人的な影響力とロビー活動に屈したという点で相当な非難が起こるだろう。(以下略)