ミュンヘンの恋人 オルガ・コルブト
世界体操が開かれていたためだろう。
ツイッターのリオデジャネイロ五輪公式アカウントから流れてきた映像にこんなのがあった。
Want to see something amazing? 😮
https://t.co/4jRFoYebh1
— Rio 2016 (@Rio2016_en) 2015, 10月 28
これを見て、誰であるか判る人は相当な体操通である。
この人の名は、オルガ・コルブト。旧ソ連の選手だ。
この技はコルブトフリップと呼ばれる離れ技で、1972年のミュンヘン五輪での映像。
どうなっているのか何度も見返してしまう。
1970年代に、こんな難易度の高い演技を見せたコルブトは種目別で金メダルを獲った、と思うだろう。
が、オルガ・コルブトは段違い平行棒の決勝で9.80を出すも銀メダルに終わった。
金メダルは9.90を出し、コルブトを上回ったカリン・ヤンツ(東ドイツ)が獲った。
コルブトのスコアを示すボードが9.80を表示すると、観客は口笛を吹き、足で床を踏み、スコアの低さに抗議した。数分に渡って会場の興奮は収まらなかった。
しかし、審判団は、彼女のスコアを変更することを拒否した。
コルブトが見せた「棒の上に立った状態から後方に宙返りして再び棒をつかむ」技 コルブトフリップは、彼女のコーチが彼女のために考案した技だ。
しかし、一度バーの上に立つときに動きが止まってしまい、演技中に静止してはならないという段違い平行棒の禁止行為に当たるため、1993年から禁止技とされている。
そのため、現在はこうした技を見ることはない。
1972年の映像というと今から40年以上も昔のこと。
それでも今なお斬新に見える。
ソビエト連邦も東ドイツも今はない。
この両国は、70~80年代に五輪を国威発揚の舞台と考え、大量にメダルを獲得した。
特定の競技については、獲るメダルを事前に両国で決めていたと言う噂がある。
(オルガ・コルブトは引退後に実際にそういった話をしている。)
ソ連は人口2億人を超す超大国。
かたや東ドイツは人口1800万人の小国。
発言力は圧倒的にソ連にあった。両国はミュンヘン五輪の女子体操の金メダルを、以下のように分けたという。
女子の団体 ソ連
女子の個人総合 ソ連
床 ソ連
跳馬 東ドイツ
段違い平行棒 東ドイツ
平均台 ソ連
これに従って、金メダル級の演技を披露しながら、オルガ・コルブトは銀メダルに終わった。
コルブトフリップは、ミュンヘン五輪当時極めて難易度が高かった。
それが、平凡な技でまとめたカリン・ヤンツに敗れたため、上記のような陰謀論が今なお消えていないのだ。
美人だったコルブトの演技に世界中の人が魅了された。
日本ではミュンヘンの恋人と呼ばれ、モスクワのソ連体操協会には2万通のファンレターが届いたと言われている。
米国のABCテレビのワイドワールドオブスポーツイヤーも受賞した。米ソ冷戦の華やかりし時代にである。
ミュンヘン五輪当時、オルガ・コルブトは17歳。
ということは現在60歳となる。
21歳で迎えたモントリオール五輪では、コマネチやネリー・キムの影に隠れるかたちになったがソ連の団体金メダルに貢献、種目別平均台では銀メダルを獲得し、翌年現役を引退。
1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに米国に移住、2000年に帰化している。