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April 18, 2016

プロ化によって破滅した古代オリンピック

近代オリンピックは2012年のリオデジャネイロ大会で120年目。長い歴史を誇る大会となったわけだが、近代オリンピックの前身である古代オリンピックは、1200年近く、延べ293回に渡って行われている。古代オリンピックの歴史から比べれば、近代オリンピックの歴史はまだ浅いと言えるだろう。
古代オリンピックか始まったのは紀元前9世紀頃、最高神ゼウスをはじめとする神々に捧げる大会であったと考えられている。開催地は古代ギリシャの都市・オリンピア。
その他にも、デルポイ、イスモス、ネメアといった場所で行われていた大会と合わせて、四大祭典競技と呼ばれている。

古代オリンピックは当初1日だけの祭典で、それも短距離走のみが行われていた。後にボクシング、レスリング、戦車競技など競技数が増え、日数も5日間と増えている。
レスリングやボクシングは制限時間がなく、ボクシングに至っては、鋲のついた革のひもを手に巻きつけて殴りあうという、非常にハードな種目だったようだ。

そんな古代オリンピックに参加できる者は、ギリシャの都市国家や植民市の市民権を持つ男性に限られていた。女性の参加は認められていなかったのだ。能力があれぱ、人種・性別に関わらず出場できる現在のオリンピックとは大きな違いである。

さらに、参加選手には10ヵ月間の訓練に励むことが義務付けられる。
開催前の1ヵ月間は、オリンピア近郊のエリスで強制訓練が行われた。現在でも、選手は試合に備えて強化合宿を行ったりするものだが、強制で訓練が行われるというのは、やはり神々に捧げる大会という意昧合いが強いためだろうか。訓練には食事制限や、60キロ
にも及ぶ徒歩行軍があり、鍛え方が足りないと失格する選手も出たという。

巌しいトレーニングを経て大会に出場し、晴れて優勝した者には、ゼウスの神木とオリーブの枝で綱んだ葉冠が与えられた。葉冠にオリーブが選ばれているのは、ヘラクレスが常春の地から持ってきた木がオリーブであり、水の少ない地でも枯れることがないことから「不死」を象徴していたためと言われている。

古代オリンピックの競技順位には「優勝」しかなく、銀・銅メダルも存在しなかった。
ストップウォッチなど当然ないので、世界新記録も存在しない。記録よりも「勝つ」ことが重要だったのであろう。
そんな古代オリンピックだが、回を重ねるうちに、「プロ選手」が登場するようになる。スポンサーもテレビ放映権料もない時代に、なぜプロがいたのか。

実は、優勝して各都市国家に帰った選手には、巨額の報酬やさまざまな特別待遇が与えられていたのである。オリンピック以外の競技大会では、賞金代わりの物品が出される大会も多い。優勝者の銅像や報奨金、家まで与えられていたようだ。さらに、英雄として崇められ、イベントに呼ばれればギャランティをもらっていたという。ここまでくると、現在のプロ選手と何ら変わりはない。

プロ選手の台頭、商業主義、勝利至上主義。
神々に捧げる祭典であったはずの古代オリンピックに、自己の名誉と報酬を目的に選手が参加するようになってしまった。さらに出身ポリスの意地がかかり、選手の売買や不正で腐敗が進み、古代オリンピックは紀元393年に消滅したのであった。

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