体操の技にはなぜ人の名前が付いているのか?
体操の白井健三がリオデジャネイロ五輪で成功させた跳馬の新技がシライ2と名付けられ、白井の名前のついた技はこれで5つとなった。
すでに跳馬の「シライ/キム・ヒフン」、ゆかの「後方伸身宙返り4回ひねり」の「シライ/グエン」と、「前方伸身宙返り3回ひねり」の「シライ2」、「後方伸身2回宙返り3回ひねり」の「シライ3」の4つがあり、跳馬の「シライ2」は5つ目の技となる。
古くは「山下跳び」に始まり、カサマツ、ツカハラ、モリスエ、エンド―、ヤマワキ…、体操の技にはかつての選手の名前が付いたものが多くある。
そもそも体操の技は、「後方棒上かかえ込み二回宙返り腕支持」「後方伸身2回宙返り2回ひねり下り」といったように、基本的に演技内容を述べたものがそのまま技名となっている。これらの通称として、選手の名前が付けられているのだ。では、どうやって選手の名前を付けるのだろうか。
結論から言うと、体操の技に付いている人の名前は、一般的には最初にその技を開発した選手の名前だ。
五輪や世界選手権など大きな国際大会での演技を参考に、国際体操連盟が、技の難度を決める時などに話し合って決めている。
人の名を付けるにあたって、実は明確な基準はない。技が複雑になるにつれ、どうしても長い表記になってしまう。
それをわかりやすくし、新しく技を開発した選手に敬意を表する意味も込めて、人の名前に置き換えている。
リオデジャネイロ五輪男子体操個人総合で内村航平が金メダルを決めた鉄棒の内容は以下のようになる。
①屈伸コバチ E難度 コバチ・ペーテル(ハンガリー)
②カッシーナ G難度 イゴル・カッシーナイタリア
③シュタルダーとび1回半ひねり D難度ヨーゼフ・シュタルダー(スイス)
④アドラーひねり D難度
⑤コールマン F難度 アロジュ・コールマン(スロベニア)
⑥アドラー1回ひねり D難度 ?
⑦ヤマワキ D難度 山脇恭二
⑧エンド― B難度 遠藤幸雄
⑨ホップターン C難度 別名ラルフ・クースト(ドイツ)
⑩伸身新月面 E難度 別名ワタナベ(渡辺光昭)
いずれも個人の名前が付いているが、アドラーはそのような名前の体操選手はいなかったので、おそらく鷲を表すドイツ語の一般名詞から来ているのではないか。
ちなみに、塚原光男氏がミュンヘン五輪で披露し成功させた、鉄棒の「後方二回宙返り一回ひねり降り」は「ツカハラ」という通称が付いているが、「月面宙返り(ムーンサルト)」という呼び名が一般的になっている。
そして「新月面」と呼ばれている技は、後方抱え込み2回宙返り2回ひねりは、ルーマニアのダニエラ・シリバシュの作で、内村が降り技に使った(伸身の新月面)は、後方伸身2回宙返り2回ひねり降りのことで、1980年代に活躍した渡辺光昭氏が編み出した技だ。