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November 28, 2016

競技日程に圧力をかけるアメリカ 平昌オリンピックのフィギュアスケートは昼間行われる

1.ソウル五輪の陸上

べン・ジョンソンの名前は知っている人も多いだろう。
ソウル五輪の陸上男子100mで、一度は世界新記録と金メダルを手にしながらドーピングが発覚し、追われるようにソウルを後にした男だ。
ベン・ジョンソンは前年の世界陸上でも金メダルを手にしており、ロス五輪の覇者カール・ルイスとの対決は大会の最大の注目とされていた。

この日、日本では、昼食を急いだ人が多かったと言う。
はやく昼食を終えてテレビのあるところに行こうとしていた。
家電量販店では、今もIOCのスポンサーを務めるPanasonic(当時は松下電器)の大型テレビの前に人が集まりかけていた。
その雰囲気は力道山を見るために集まった街頭テレビのそれにも似ていた。

そう。
ソウル五輪最大のハイライトと言われたカール・ルイスとベン・ジョンソンとの対決は、日本時間の午後12時半の少し前に始まったのだ。

男子100mの決勝はこんな昼間に行われるものなのか?
3か月前のリオデジャネイロ五輪の陸上男子100mは、8月14日22時25分に始まった。
リオと日本との時差は12時間だから、日本人は午前10時25分に決勝レースを見た。

では、その4年前はどうだったのだろう。
ロンドン五輪の陸上男子100mは、8月5日21時50分に始まっている。
英国と日本との時差は9時間、日本の方が先に進んでいるのだから朝の6時50分にレースは始まった。

近年の五輪でも世界陸上でも、男子100mは日曜日の最終種目に行われている。
五輪の後半は陸上が目玉。
陸上競技が盛り上がるかどうか、男子100mの結果次第でもある。
リオでもロンドンでもウサインボルトが圧勝、盛り上がりは大会後半に続いた。

ではなぜ、ソウル五輪の100m決勝は昼間に行われたのか。

莫大な放映権料を払うテレビ局がスポーツの開始時間にも介入しているのだ。

五輪運営の鍵を握っているのは、米国のテレビ放映権料だ。
日本人のように夜通しで生中継のテレビかじりついて五輪を観るなんてことを米国人はしない。
就寝前にベッドで五輪を見る。これがベストだ。
独占放映権を持つテレビ局は米国時間の夜まで競技結果を放映せず、夜に録画を流す。
インターネットの普及した今日、競技結果を夜まで知らないでいられようがない。
そのためテレビの録画放映は低視聴率にあえぐ。
これを打開する方法が、競技時間を米国に合わせることだ。

アメリカ東部地区の人が、就寝前に五輪中継を楽しむためにソウル五輪では陸上の選手が犠牲になった。
がNBCテレビはこれによって高視聴率を獲り、放映権料を回収した。

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2.北京五輪の競泳と体操

アジアで五輪が開催されると、同様のことが繰り返される。
2008年北京の五輪では、競泳決勝のすべてと体操の団体総合、個人総合の決勝が午前中に行われた。

2004年アテネ五輪で金メダルを獲った北島康介の200m平泳ぎを例に取る。
予選、準決勝、決勝と金メダルまで3回泳いだ北島のスケジュールは下記のようだった。
8月17日 予選 午前
8月17日 準決勝 夜
8月18日 決勝 夜
(時間はアテネ時間)

これが北京五輪では、
8月12日 予選 午後
8月13日 準決勝 午前
8月14日 決勝 午前
のように従来の2日間から3日間になった。
ほとんどの選手が複数の種目、あるいはリレーに出場する中で、ひとつの種目に3日かけることの負担は大きい。
水泳大国の豪州や欧州各国はこの案に反対だったが、IOCに押し切られてしまった。

3.リオ五輪の競泳

リオデジャネイロは、米国東部と時差が2時間(サマータイム時を除く)。
リオ五輪の競泳は、現地の午前中に予選、午後10時から準決勝、決勝が行われた。
午後10時からと言うのは、北京五輪の午前決勝にも負けないくらいのひどさだ。
競泳の最終種目は午後11時以降。
8月8日の最終種目男子400mリレー決勝はなんと午後11時52分に開始、11日の女子800mリレー決勝は午後11時55分に開始されたが、レースが終わったのは翌日になっていた。

4.平昌五輪のフィギュア

再来年の平昌五輪では、フィギュアスケートがテレビの犠牲になりそうだ。
平昌冬季五輪組織委員会が示した競技日程案によると、フィギュアスケートは全種目が午前10時開始、遅くとも午後2時半ごろまでに終了するスケジュールが組まれている。
これは時差は14時間の米国東海岸のテレビ視聴者に合わせたもの。
米国人はベッドでフィギュア観戦をし、午前0時半に競技終了とともに寝るのだ。

5.長野五輪の開会式

日本は過去に3回の五輪を開催しているが、米国のテレビ局の意向で時間が決められたことはないのだろうか。

ある。

1998年の長野五輪の開会式は、日本時間の午前11時に開始された。
冬季五輪も夏季五輪と同様に開会式は、夕方から夜にかけて行われてきた。
が、長野の午前11時は異例の時刻だ。

1995年2月25日付けの信濃毎日新聞に次のような記事がある。

NAOCは「開会式はすべての競技の前に行うのが望ましい」と、7日午後4時に始まるアイスホッケー予選より早い時間に開会式を設定した。開会式の始まる午前11時は、米国時間の午後6時から9時に当たる。高い視聴率が望めるため、放映権を獲得した米CBSテレビも午前中の実施をNAOCに求めていた。

NAOCとは長野五輪組織委員会のことで、長野五輪の開幕の3年前にCBSテレビが強引に求めてきていたことが判る。

現在、東京五輪の競技会場が開幕4年前にして、いまだに完全に決まっていない状況だが、このあと来年頃からNBC放送が競技スケジュールに圧力を掛けて来るだろう。
競泳、体操、陸上等は米国で人気が高く、筆者は東京五輪でも午前中実施になる可能性が大きいと見ている。


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