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May 15, 2017

オリンピックの政治利用なんて冗談じゃない

毎日新聞には、シドニー五輪の頃まで、モスクワ五輪を振り返る特集が度々あった。
宗兄弟や高田裕司氏、あるいは津田真男氏の近況を伝える記事もあった。
それからすると、「モスクワ五輪の不参加は政府が決めた」なんて書くのは、ちょっと毎日らしくない。

モスクワ五輪ってカーター米大統領(当時)から圧力を受けて日本や西ドイツ(当時)や韓国はもちろん同調してボイコットしたが、実は西ヨーロッパの主要国は多くが参加している。

イギリス、フランス、イタリア、スペイン、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、オーストリア、オランダ、スイス、ベルギー、ギリシャ、アイルランド等ほかにもブラジル、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランドなども参加している。

各国のNOCがそれぞれ政府から圧力をかけられても、開閉会式・表彰式では国旗ではなく五輪旗を掲げるとか、五輪は平和運動のひとつとの考えでモスクワ五輪に参加したのだ。

▲モスクワ五輪開会式 イギリスはBOA役員のディック・パルマ―が五輪旗を掲げて入場した。 パルマ―の後ろに選手はゼロ。つまり、イギリス選手は開会式に一人も参加していない。 こんなことたぶん誰も知らないだろう。

一方、JOCは、政府から14億円の国庫補助金の打ち切りを示唆されて、あっさりとモスクワ五輪不参加を決めた。この当時の読売新聞の社説には『五輪より外交』などという文字が並んでいるが、米国追従は今も昔も変わらない。

「モスクワ五輪ボイコット」を突如カーター大統領がぶちまけたのは、80年の大統領選で、ジミー・カーターに負けそうだったからだ。
「モスクワ五輪ボイコット」を言い出せば、劣勢を挽回できると勘違いしたらしい。

当時のIOC委員は、選手出身の委員よりも、欧州の王族や経済的な成功者が多くを占めるブルジョアクラブのようなものだったため、スポーツの世界、あるいは社会全体の動きに疎い連中の集まりだった。

そのため、ジミー・カーターを説得するでもなく、打開案を見出すでもなく、みすみす五輪の崩壊を指をくわえて見ていただけだった。
五輪からすべての政治色を排除することは難しいが、カーターが五輪ボイコットをを呼びかけたことは誤りだった。
これが、モスクワ五輪ボイコットに対する現在の評価だ。

日本もJOCは不参加を決めたが、日本バレーボール協会や日本レスリング協会は個別に参加できる道を必死に探した。
が、IOCはついに動かなかった。


モスクワ五輪が閉幕し、新たにIOC会長になったばかりのアントニオ・サマランチは、銀行家から外交官になり、IOCに入った人物だ。
サマランチは、五輪の肥大化、商業化、オープン化に尽力した。

招致をめぐるスキャンダルで悪者のイメージも強いが、社会の変化と現状を示そうと、モスクワ五輪の翌年、1981年のオリンピックコングレス(五輪全体会議)に初めて、現役選手に発言の場を設けた。

選手がそれまで、公式の場でものが言えなかったのも驚きなのだが、このときIOCを舞台に、選手の立場から初めて演説をしたのがセバスチャン・コー。

世界に3人しかいないモスクワ・ロサンゼルスの両五輪で金メダルを獲った人物だ。
ロンドン五輪組織委員会会長を経て現在は、IAAF(国際陸連)会長を務める彼は、モスクワに選手を送らなかった国、送ることを妨げた国を痛烈に批判した。
五輪選手の負担は大きく、その犠牲は無視すべきでない。IOCには、選手への社会的配慮を保証する、道義的義務がある」と。

さて、3年後の東京五輪だが、文頭の毎日の記事はこう結んでいる。

首相は16年8月、リオデジャネイロ五輪の閉会式に「マリオ」に扮(ふん)して登場し、東京開催をアピールした。
五輪憲章は国家元首ですら開会式や閉会式で宣言する言葉を定め、政治色を排除している。
(中略)
スポーツ評論家の玉木正之さんは「計画した組織委も、それを許可したIOCも憲章違反と言わざるを得ない」と語る。
果たして五輪と政治の関係はどうあるべきか。
玉木さんは「アスリートを応援するのは当然で、五輪には反対しにくい。
五輪に絡めて憲法改正を持ち出すのは巧妙だ」と指摘。
「五輪はスポーツの祭典として独立しているべきだという感覚が全くない。
政治はスポーツをサポートする役割に徹するべきだ」。

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