先のバンクーバー五輪で、日本選手団は銀銅合わせて5個のメダルを獲得したものの、今大会躍進した中国・韓国と比べ、その環境はあまりにお粗末であると各メディアで話題になった。
JOCの選手強化費用は年間僅かに25億円にすぎず、
ドイツ274億円
米国 165億円
英国 120億円
中国 120億円
韓国 106億円
と、諸外国とは相当な開きがある。(数字はいずれも北京五輪に向けての強化費)
特にバンクーバーで躍進した韓国は、この1年に597億円を注ぎ込んだという説もある。
これに加えて、昨年暮れの政府の行政刷新会議による事業仕分けにより、平成22年度に文部科学省からJOCに降りる予算は25億8800万円と、21年度よりも1億2600円も下がることになった。
ところが、バンクーバー五輪閉幕直後 文部科学省のHPにこんな内容の文章がアップされたことをご存知だろうか。
平成22年度予算案における国際競技力向上関係の予算
(前略)スポーツ振興に関し、来年度のスポーツ予算が、事業仕分けの評価結果等を踏まえ、減らされたのではないかと懸念する声がありますが、事実関係は以下のとおりですので、ご説明します。まず、スポーツ関連予算全体ですが、来年度予算案では、過去最高となる227億円を計上しています。
また、国際競技力向上関係予算については、前年度20%(27億円)増の163億円を計上しています。(後略)

▲文科省のHPより
図入りで説明が書かれているのだが、JOCへの補助金は、確かに1億円以上落ちている。
ところが、平成22年度に五輪でのメダルが有望な競技・種目を重点的に支援するという「チームニッポンマルチサポート事業」に18億8000万円の予算が取られている。
この事業の21年度の予算額は3億800万円だったから、来年度は実に6倍強の予算が付いたことになる。
また、同様に「次世代アスリート特別強化推進事業」に5億2700万円、「ジュニアアスリート支援プログラム」に2100万円の予算が取られ、これらの合計である「競技力向上ナショナルプロジェクト」全体で24億1200万円の予算が計上されているのだ。
選手強化関連予算は、単純にJOCへの助成金と合わせて約50億円となる。
そして、メダル獲得が有力な種目について海外の情報収集や医科学・栄養学の活用、トレーニング方法の開発など総合的に支援するマルチ・サポート事業については、対象を今年度の8競技から17競技に拡大し、支援を強化するとある。
事業仕分けが話題になっていた頃、あるいは苦戦したバンクーバー五輪の開催中に、日本のスポーツ予算がこんなに増えるとは思わなかった。
が、実際には、2009年末にはこの概要は大きく報道されていたのだ。
敢えてこのようにしているとまでは思わないが、スポーツ予算はわざと判りにくくしているのでは、と勘ぐりたくなる。
「事業仕分け」でも指摘されていたが、スポーツに対する財源が、国庫補助金、スポーツ振興基金、スポーツ振興くじ(toto)と3つあることが問題を判りにくくさせている。
例えば、JOCは各五輪競技に対し
毎月20万円支給する エリートA
毎月10万円支給する エリートB
毎月5万円支給する エリートユース
といった選手強化制度を作った。
これはスポーツ振興基金をその原資としている。
簡単にいうならば、エリートAに指定された選手には毎月20万円、エリートBには毎月10万円、ユースには毎月5万円の補助が支給されるというものだ。(さらにコーチ等にも補助が出る)
その一方で、各競技団体ごとにも、同じように強化指定選手が指定されているのだ。
例えば全日本スキー連盟(SAJ)スキー・ジャンプの場合
栃本翔平
岡部孝信
葛西紀明
伊東大貴
の今回の五輪代表だった5選手の内、4人の選手がJOCによりエリートAに指定されている。
(SAJではほかにAはスノーボードの選手が3名のみ、エリートBはひとりもいない)
この4名の選手に支給されるのは
それぞれ20万円×12ヶ月=240万円
一方、SAJのHPを見ると
ジャンプの場合、強化選手Aとして上記4人の選手のほかに
湯本史寿
渡瀬あゆみ
の2名が加えた6名の選手の名前がある。
さらに
強化選手B 19名
強化選手C 5名
ジュニアA 12名
ジュニアB 4名
の選手も指定されている。
SAJのHPによるとジャンプ強化事業支出は年間約5200万円
この金額から推測すると
強化選手A 毎月20万円
強化選手B 毎月10万円
強化選手C 毎月5万円
ジュニアA 1年間80万円
ジュニアB 1年間に40万円
といったの強化費が支給されているようだ(筆者による推測)。
すると、栃本翔平、岡部孝信、葛西紀明、伊東大貴の4選手はJOCとSAJと合わせて年間480万円の強化費を手にしている。
もちろん、所属の雪印や土屋ホームからの給与、さらにW杯のポイントによる賞金もあるので、年収はもっと多くなる。
ところが、JOCによるエリートA、エリートBは3か月ごとに見直されており、現在、いったい誰が指定されているかよく判らない。
JOCのHPに出ている一覧は2009年1月1日現在だ。
これでは1年以上も前の情報でしかないではないか。
3月16日こういったニュースが流れた。
日本陸連は16日の理事会で4月からの強化選手格付けを見直し、2004年アテネ五輪女子マラソン金メダリスト、野口みずきが最高のS指定から外れてA指定となった。
現在のS指定は昨年8月の世界選手権で銀メダルの女子マラソンの尾崎好美、銅メダルの男子やり投げの村上幸史、男子ハンマー投げの室伏広治の計3人。
陸上競技では
Sランク:300万円
Aランク:200万円
Bランク:150万円
Cランク:60万円
の強化費が日本陸連から各選手に支給されている。
しかし、Aランク以下の選手に誰が該当しているのか、陸連のHPのどこを見ても書いていない。
一方、陸上にもJOC指定のエリートA・Bの選手がいる。
いったい誰か?
北京五輪400mリレー銅メダルを獲った4人の内、活動中の塚原直貴と髙平慎士がエリートA、競歩の山崎勇喜がエリートBであることは、検索すれば出てきており、指定されていることはほぼ間違いない。
ところが、JOCのHPにはエリートAとして末続慎吾の名前が出てくるのだ。
が、ご存知のように末続は現在休養中で、強化指定から外れている。
このことは新聞等でも報道されている。
そして、塚原、高平、山崎の他にも指定されている選手がいるかどうかは判らない。
スポーツ界は情報公開がずいぶんと遅れているようだ。